財界にいがた 2002年8月号

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財界にいがた 2002年8月号
財界にいがた 2002年8月号記事
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日本初!画期的な調剤薬局をひねり潰す医者のエゴ
昨年末(2002年8月現在)、新潟市に「処方箋なしでも病院の薬が買える」という薬局が開店した。もちろん国内第一号。しかし、これに待ったをかけだのは新潟県医師会。政治の力を借りた得意の手法で、潰しにかかってきたという。

これ合法なんです
「きっかけですか? 以前、私はある門前の調剤薬局に勤めていたのですが、そのときに『目薬をきらしてしまった』とか『便秘薬がすぐなくなるから多めに欲しい』という患者さんが訪ねてくるのです。そのたびに”処方箋がないと売れません“といって追い返していることに疑問を感じていました。それで”こんな薬局ができないものか“と、そこからは法律の勉強です」

昨年10月(2008年8月現在)に開店した薬局「薬局アットマーク」の代表、薬剤師の荒居英郎氏は振り返る。

薬局アットマークは、病院で出す薬を、医師の処方箋なしで買えるという、日本で唯一無二の調剤薬局だ。

もちろん全ての薬を販売できるわけではない。厚生労働省が定める「要指示薬」(医師、歯科医師、獣医師の指示がなければ販売してはいけない薬)以外のものに限られる。

どんな薬が買えるかというと、貼り薬、塗り薬、ステロイド軟こう、アレルギーの薬、水虫の薬、鼻水の薬、咳止め、痰を切る薬、胃・十二指腸潰瘍の薬、整腸剤、痔の薬、漢方薬、便秘薬、ビタミン剤、目薬、乗り物酔いの薬など。

買えないのは鎮静剤、抗不安薬、抗がん剤、抗生物質、不整脈の薬、血圧の薬、ホルモン剤、甲状腺の薬、糖尿病の薬、バイアグラなど。

それにしても、これだけの薬が処方箋なしで「合法的に」買えるというのは意外だ。これならば、利用価値は高い。

まず市販の薬より効き目の高い(成分量の多い)医療用薬品を病院に行かずに買えるというのはありがたい。「湿布薬や目薬程度をもらうためだけに、何時間も待たされるのはたまらない」と思ったことは、誰でも一度や二度あるのでは。病院と違って、土日祝日も遅い時間も営業しているので助かる。

「保険が利かないから値段が高いのでは」という疑問が湧く。確かに、何種類もの楽を2週間分など長いスパンで投薬されている患者にとっては、病院に行くほうが安く済む。しかし「湿布薬や使秘薬を少々」などという人なら、診察料を取られない分だけ安く上がる。

ましてや街頭の薬店で売っている薬(OTC)よりはかなり手頃な値段だ。

同薬局は完全会員制(入会金500円・年会費300円)を採用している。患者の使用している薬の種類を把握し、副作用と飲み合わせを防止するためだ。

ここまで徹底しても「本当にそんな薬局で大丈夫なのか」と言う人がいる。ここで売っている薬がダメなら、病院の薬もダメだということだから心配はない。用は使い方一つだろう。「開設時、保健所にはこんな薬局は許可されるはずがない、と言われました。いくら“法律的にはクリアしている”と説明しても、最初はわかってもらえませんでした。なんとか開局にはこぎつけましたが」


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財界にいがた 2002年8月号記事
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なぜ今までなかったのか?
実際、この薬局は便利である。大手医薬メーカーの関係者も、その着眼点に賛辞を送る。「かなり頭のいい人だと思います。業界でもかなり話題になっていましたよ。確かに現行の法律はクリアしていますからね。薬剤師会は渋い顔をしていました。街の薬店も、こんな薬局が全国にできれば死活問題になるでしょう。メーカーとしても大いに困る。一番苦々しく思っているのはドクター(医師会)でしょうね。ただ個人的には拍手を送りたい試みです」

「要指示薬以外は処方箋なしで合法的に販売できる」というのは、医薬の業界に携わるものなら誰でも知っている。ならば、なぜ今まで誰もやらなかったのか。

「薬局側のメーカーヘの配慮が一番ですね。仁義と言い換えてもいい。街の薬店で売っているOTC薬と医療用医薬では、全く同じ成分でも価格にはかなりの開きがある。例えば、OTCのガスター10という胃薬は、医療用ガスターと同じ成分ですが、一錠あたりの単価は卸し値で3倍近い。これはどの差があれば、OTCを買う人がいなくなります」 (同)

医療用医薬品の値段は国が決定する。医療費の削減傾向にある昨今、国が定める薬価はどんどん下がっている。メーカーの原価割れという薬もあるという。そうなれば、OTCと医薬の価格差はますます大きくなる。

薬を卸してもらうメーカーサイドに気を遣うあまり、OTCと医薬を同じ土俵に上げるのを逡巡しているのが現状。「これをやっちゃぁおしまいよ」というところだ。

「それと同時にあるのは、ドクターヘの配慮でしょうね。処方箋なしで医薬品が買えれば、高い診察料を払わなくていいわけですから、こんな薬局が日本中にできたら医者は喰いぶちが減るでしょうね」(同)

最近でこそ医薬分業の言葉も一般化し、街には「どの病院の処方箋でも調剤します」などという看板を掲げた調剤薬局が目立つようになったが、少し前まで医療側は、薬の「利権」を手放すことを頑なに拒んで抵抗していた。

医者がレセブト提出で国に請求する薬の代金と、メーカーが病院に卸す薬の値段に開きがあり、その差益は病院にとって犬切な財源になっていたからだ。

医薬を取り巻く状況とは、メーカー(卸しを含む)、医者、薬局のベッタリとした支え合いにより成り立っていることは否定できない。

そこには、患者(消費者)の立場に立った姿勢などは微塵もない。もちろん国が頭を痛める医療費の問題などには耳も貸さない。


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財界にいがた 2002年8月号記事
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出る杭を打つ
薬局アットマークは、一般のユーザーよりも医療業界内で大きな話題を振りまいた。応援する声よりも迷惑がる声が大きかった。ただ、法律的に問題がない以上、否定することはできない。メーカーも薬剤師会も静観するしかなかった。

しかし、“医者様”だけは徹底的に潰しにきた。

新潟県医師会では同薬局の営業形態を「問題ある動き」として日本医師会に報告し、対応を促したのだ。

これが発端となり、厚生労働省は国会に薬事法の改正案を提出。その中には「要指示医薬品」を廃止し「処方箋医薬品」を新たに設ける項目が盛られた。ごく一部の例外を除き「処方箋医薬品=医療用医薬品」ということになる。その結果、大部分の医薬品において処方箋が介在しなければいけなくなるというもの。

「これが通ってしまえば、薬局アットマークは営業できなくなります」(荒居氏)

すでに参議院は通過し、近々の国会で正式に薬事法が改正される見通しだという。

医師会側の言い分は「現行では法律違反でないが、医師に無診投薬が認められないのに、薬局が販売するというのは許せない」というものだ。

これに対し荒居氏は反論する。「無診設楽は、現在の医療現場でも当たり前のように行われている行為。それを理由にするのは理不尽です」

確かに大きな病院へ行くと「お楽だけのお客様」などと書かれた受付口を頻繁に目にする。実際、2回目以降は診察しなくても楽を出すケースが普通に存在するのだ。もちろん診察はしなくても、診察料金は払わされているのだが。

日本医師会といえば、与党自民党の強力な支持組織。その結びつきと影響力は有名だ。彼らにしてみれば、迷惑な新機軸薬局ひとつ潰すのに、政治を動かすことなど容易なのかもしれない。

「無診投薬がポイントなら、この矛盾点を突いて、まだ闘う余地があるかもしれない。存続をあきらめるわけにはいきません」(同)

新潟の一人の薬剤師が医療の現場に投げかけた波紋は、あまりにも大きかった。 


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